コンスタント・パワー・パンニング
前回のITDとILDの実験、リニアパンニングでは、音の定位を真ん中にした時に、若干聴感上音が小さく感じられてしまう問題がありました。
これがなぜかを説明するには「音響強度の法則(law of sound intensity)」を理解する必要があります。
人間の聴感上の音の大きさはこの音響強度のパラメータによります。そして、音響強度はスピーカAとスピーカBに対して送る信号の振幅をそれぞれAamp、Bampとすると以下法則で求められます。
リニア・パンニングでは、定位を完全に左にした時、或いは右にした時は、音響強度は以下のように1になりますが、
定位を真ん中にした場合は強度が0.707になり我々の耳には音が小さくなったように聞こえます。
しかし、以下のコンスタント・パワー・パンニングというテクニックを使うと、定位を真ん中にしても音量の変化を伴いません。
パッチを見てわかるように、左側のチャンネルの振幅が上がった時、あるいは下がった時に、反対のチャンネルの振幅を単純に増やすのではなく、余弦波のカーブを伝達関数として利用していますこれにより、定位を真ん中にすると、両方のチャンネルの振幅が0.707になります。もし両方のチャンネルの振幅が0.707であるなら以下のように強度は1となります。つまり定位を完全に左、右に振った時と音量が変わらなく聞こえるはずです。
このように、コンスタント・パワー・パンニングを使うと、左右の音の動きがよりスムーズに聞こえます。DAWなどではこの方法でパンニングを行なってますが、Pdでは自分でこれをプログラムする必要があります。また「cos」はコントロールワールドで処理しているので急激に定位を変化させる場合は「line~」などをかまさないと、クリックが乗る可能性があります。
Pdではパンニングすら、自分でプログラムしなくてはいけないことが面倒と思うかもしれませんが、逆に言えば、この定位と音量の関係を自分で定義できるとも言えます。左から右に音が移動するときに、真ん中で音が大きくするような伝達関数を「cos」の変わりにいれてみると面白いかもしれません。
(参考: Curtis Roads, The Computer Music Tutorial)
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