カープラス・ストロング合成
このチュートリアルでは、物理モデル合成の最も初歩的なものであるカープラス・ストロング合成を紹介します。物理モデル合成とはその名のとおり、生楽器の物理的な発音構造などをコンピュータ上で計算し、音色をシミュレートして音を出す方法です。カープラス・ストロング合成はその中でも、ギターのような撥弦楽器の音を作り出す合成法です。アレキサンダー・ストロング氏とケビン・カープラス氏によって発明・分析されたので、このように長い名前となっています。
これをPdで実現するにまず短いノイズを作る必要があります。単純に「noise~」からのノイズを5ミリ秒出力するパッチを以下のように作りましょう。
次に、これを「delwrite~」と「delread~」を使ってフィードバックさせます。ディレイ・タイムは3ミリ秒に設定します。ここで、フィードバックさせる割合を調整すると(初期値は0.9ですが、0から1の範囲で設定してください)、ギターのような、弦のような音が聞こえ出します。これが基礎のカープラス・ストロング合成です。
お気づきの方も多いと思いますが、これはコムフィルタやフランジャーエフェクトと基本的には同じ原理で、フィードバックによって何度も同じ波形が反復されるので、音源がノイズであるのにもかかわらず、知覚できる音高が発生するのです。弦の音の音高はディレイタイムによって設定できます。現在ディレイタイムは3ミリ秒なので1000/3で333.33Hzの音がなっています。換言するなら、「1000/周波数」で、任意の音高を出すためのディレイタイムが求められます。これをパッチ上にプログラムすると以下のようになります。ナンバーボックス「freq」で出音の周波数が指定できるようになりました。
またフィードバック回路の中にローパスフィルタを入れると、高い周波数成分がカットでき、「ポクポク」というミュートした弦のような音になります。
さらに、「delread~」を「vd~」に変えるとビブラートやチョーキングのようなギター・テクニックを再現する事も可能です。
このカープラス・ストロングを用いた初期の名(迷)曲として「シリコンバレー・ブレークダウン」が挙げられます。この曲がいい曲かどうかは置いておいて、カープラス・ストロングの可能性が全て試された曲であるのは間違いありません。